9.まぐわい



――こんな気持ちになった事は生まれてこの方、一度も無かった。


女ってのは喜ぶ事をすればニコニコと笑って、
その延長線には身体を差し出してきて、それを俺は相手が悦ぶ様に攻め立てる。

……別にそこには≪本当の愛情≫なんてない。
ただの擬似恋愛の一つにしか過ぎないだけ。

もっと酷い言い方をすれば、俺にとっての情事は“性欲処理”の一つだった。



『本当に心から好きだと思える人物と出会ってから、俺の中で何もかも変わったんだ』


――まさか、泰を好きになるなんて思ってもみなかった。

今までなら笑いかけてくる女とは平気で寝ていたけど、
泰は……何ていうか、情事どころか手を繋ぐ所にさえ踏み出せていない。

別にアイツが幼児体型だから、とかでもなくて。

「瞑くん?……どうかしたの??」
「いんや、別にぃ〜?」
「変な瞑くん」

そう言って微笑みかけてくると、俺の理性も危うくなってくる。
欲望には忠実な俺様が自分の理性を何でそんなに抑えているのか。

……それは、リミッターが外れて理性が無くなった時、
自分の中の獣の性で泰を傷つけてしまう事が何よりも怖いから。


だから俺は自分を抑える為に他の女を変わりに抱いているんだ。


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