泰ちゃんと庭師のお話。
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「あれ??」



恵くんからのお使いから帰って来た僕はビックリした。
めずらしく、早い時間から生徒会室に柊くんがいたからだ。







++Your sense of values++







いつもこの時間帯は大抵、柊くんは中庭の花壇にいる。
この時間に生徒会室にいるのも珍しいけど、しかも勉強してるなんて僕は思いもしなかった。


「あ、おかえりなさい」


僕と目線が合った柊くんは笑う。
つられて僕も、ただいま〜って言いながら笑った。


「何やってるの?柊くん」
「明日の日本史のテスト勉強です」


これですと言って柊くんは、授業で配られてたらしいプリントを僕に渡す。
そのプリントは僕も授業で貰ったものと同じだった。

あ、そうだ。
僕のクラスも明日日本史テストだ。


「だから予習してるんだぁ〜」
「うん。僕は社会科系は苦手だから、こうして勉強しないと」


テストで悪い点を取るから、と柊くんは苦笑しながら言う。
そういえば、柊くんは社会科系が苦手なんだって前聞いた事がある様な無い様な…


「ねぇ柊くん」
「ん?何?」
「なんで、社会科系が苦手なの?」


なに聞いてるんだろう。
普通は、苦手なものをどうして苦手なの?だなんて人に聞かないよね。


「苦手な、理由…?」


柊くんも困惑した様子で僕を見ていた。

当たり前だよね。
僕自身でさえ自分の発言にビックリしてるもん。


「ごめん、変な事聞いちゃった。気にしないで」
「別に変じゃないと思うけど…」


柊くんは僕にそう言ってから「そうだなぁ…」と考える。


そういえば、僕って柊くんと二人っきりで話したことが今まで一度も無い。
今まで誰かと一緒に話すってことは結構あったけど、なんだろう?今すごく不思議な感じがする。


「んー…歴史って」
「??」


少し時間が過ぎた頃、柊くんは静かに呟いた。


「人の犠牲で成り立っているよね」
「?」
「争い事やそういう話は…嫌いで。何でそんな事を学ばないといけないのかなって思ったらいつの間にか」


そう話す柊くんの顔は、どこか寂しそう。
僕の気のせい…かな?


「苦手になってたんだ」


変な説明でごめんね、と僕に謝る柊くんだけど、僕はちっとも変だとは思わなかった。
むしろ一理あるかなって思う。


「全然柊くんは変じゃないよ?」
「煽てなくても」
「おだてじゃなくて、僕、本当に柊くんの答えは正しいと思う。…僕も争い事は好きじゃないもん」

考えたら、日本史の教科書は数ページ毎に1回は何か戦争事が書かれている様な気がする。
ちょうど今勉強してるのも何かの合戦の所だし。


「戦争とか争い以外に、皆が幸せに暮らせる方法って本当にないのかなぁ…」
「…それは」
「僕はある様な気がする。そんな感じがするんだよね〜」


なんちゃって、て笑って僕は、持っているプリントを柊くんに返した。
受けとる柊くんが少しだけ驚いてる顔してたけど、少ししたら、いつもみたいに微笑み顔になってた。
勉強を再開するかな?って思ったけど、柊くんはじっとプリントを見つめている。


「あれ?何かわからない問題でもあるの??」
「いや、違います」
「??」
「世の中の人達が、皆、会長みたいな考えの人だったら良かったのに」
「…え?」
「って、そう思ってたんです」


柊くんはいつもみたいに笑っている。



でも、幸せそうに笑ってたのは
…僕の気のせいなのかな?