庭師と妃のお話。…庭師×妃? ----------------------------- 生徒会室に帰る途中で近道しようと中庭を通り掛かった私は、彼を見つけた。 いつもの…青い作業着を着ている彼を。 ++The flower which becomes you++ 「庭師、何植えてんの?」 「…っ!?…あ、沙百合さん。こんにちは」 よほど真剣に考え事していたのか私が横から声をかけると庭師は驚いたみたいで、急いで私の方に振り返った。 そんなに急いで振り向かなくても良いのに。どうしたんだろ? 庭師は両手に軍手をしていた。 しかも右手には、植えてる途中であろう球根を持ってるし。 …本当、庭弄りが好きだよね。 「また何か新しい花?」 「うん」 私の問いに庭師は笑顔で答えた。 物凄く、幸せそうな顔で。 「実は、ちょっとした試みをしようと思って」 「試み?」 この学園の中庭の花壇はいつも業者ではなくて庭師が手入れをしている。 花が好きだと初めて会ったときの自己紹介で言ってた通り、花に対する情熱は凄まじい物で。 そんな彼が、一体何を試みるんだろう? 「ここら辺の花壇を、生徒会の皆一人一人に似合う花を植えようかなって思っているんだ」 「へぇ…」 ちなみに今は真夜さんに似合う花を植えてるってニコニコしながら庭師は答える。 庭師が実行しようとしてるそれって、所謂フラワーアレンジメント関係の一種なのかしらね? 私はお金以外は全くっていい程、興味が無いから判らないんだけど。 「それで、目黒先輩のを今植えてるとして、だ。他の皆のは植えたの?」 「大体は…かな」 「大体?」 私が聞くと庭師がちょっと苦笑する。 「んー…後、自分と沙百合さんの花だけ…決まらないんだ」 「私と庭師??」 「うん」 自分に似合う花を見つけるのは困難だと思う。 …いや、ていうか!その前に私に似合う花が見つからないってどういう事よ? 「沙百合さんのは、どれだけ本を読んでも、考えても、決まらないというか…」 「なに?そんなに私って花が似合わない訳?」 「違う違う。そういう理由じゃなくて」 他の人は決まってて自分だけ決まらないって事に、女心としてちょっとムカッとしたから少しだけ怒った言い方をすると、 庭師は慌てて、私の発言を否定した。 「…じゃあ、どういう理由?」 答えてみてって催促してみたら、庭師は少しだけ困った顔をしながら言った。 「沙百合さんは…」 何であの時、私は答えてだなんて言ってしまったんだろう。 本当、今となっては聞かなければ良かったって心底思う。 だって… だって……!! 庭師のくせにあんな事言うんだもの!! 聞いた瞬間に私の顔が真っ赤になったのは、私自身で判った。 当の言った張本人はそんな私を見て笑ってたから、余計恥ずかしい思いをしたし。 ちゃんと私に似合う花を見つけなさいよ!って捨てセリフの様に言って、私はダッシュして生徒会室へと戻った。 でも、その後もずっと庭師の言葉が頭から離れなくて… 私とした事が、会計報告の書類の計算を間違えたり、 (ナイト先輩に大丈夫か?だなんて心配させたりしたし) 帰り道には留学生みたいに転んだし、 挙句の果てには、夜は眠れなかったりともう散々! 暫く、あの言葉は忘れられそうもない。 そんなに私を動揺させた庭師のあの言葉。 それは…… 『どんな花でも沙百合さんに似合うから、だから…僕には選べないんだ』 庭師の言葉は、暫く私を悩ませ続けるのだった。 The flower which becomes you =『貴女に似合う花』