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「たとえば」



普段は、部屋の端の方で話を聞いてる人間が。
(いや、俺もある意味端の方で話を聞いてる人間だが。)

いきなり口を開いて喋り始めて、
机越しだが俺の目の前にいるのに、
驚くのは当たり前の事だと思う。

ちなみに、たとえば、と高橋は言ってきたが、その前に俺達は会話という会話をしていない。
いきなり相手が「たとえば」と話かけてきたのだ。

しかし、俺が驚いたのが顔に出たんだろう。
あのいつも見せてる笑顔が一瞬だけなくなって真顔になって、どうしたんですか?とそう聞いてきた。
別に、と返事を返すと、またあのいつもの笑顔に戻る。



「たとえば、なんですが」

思うんだが、高橋の一言一言にはとても深い意味を持っている事が実は多い。
意外に俺も助けられてる事もしばしばある。

だから、俺は高橋の話はなるべく聴く様にしている。
今回はなんだろうか…

「会長…泰さんに危害を加える人間がいるとしましょう」
「…それは『たとえば』じゃなくて本当か?」
「さぁ、どうでしょう」

俺の答えに表情を変えずいつもの笑顔で高橋は曖昧に答える。
まさか、いきなり会話に泰がくるなんて思いもしなかったが、今回の会話の内容は少なからず聴く必要はある様だ。

「といいますか、そういう兆候があるのに、貴方は気付かなかったんですか?」
「噂の張本人が仕事をしないせいで、放課後の俺はほぼ此所に縛られてるからな。誰かに言われない限り、此所以外の出来事は今の俺には分からないんだ」

と言う以前に、泰は自分がそんな目に遭っている事なんか絶対に言わない。

過去に中等部に通ってた時にも同じことが起きた。
その時も泰本人は俺達に何も言わなかった。…俺や瞑に心配かけさせたくない、が泰の理由だそうだ。


でも、たとえ泰が隠していたとしても俺達にはバレバレで、
泰が気付かない所で俺達が相手に色々な事をしている事が現状だ。
今回の高橋の話は、瞑からも聴いた事が無い。

大体、今回は本当の事かは分からないんだが。

多分あれなんだだろうな。
俺達が生徒会に入った時に泰に危害を加えてた人物達を一掃したから、安心感が芽生えてたに違いない。
もう少し、気を引き締めないと。


目の前にいる高橋といえば、俺が返事するとそうですかと言って一瞬考える様な顔つきになった後、またいつもの笑顔だ。
…高橋のその笑顔は癖なんだろうか?


「……もしも」
「ん?」
「泰さんに危害を加えている人物が『僕』だとしたら貴方はどうしますか?」

高橋は人差し指を自分の口に近付けて、普段の笑顔とは違う、明らかな挑発的な笑みで俺を見て呟いた。
その顔が本気なのか冗談なのか、俺には分からない。

でも、本能的に俺は思ったんだが。

「それは違うだろう?」
「…、何か根拠でも?」

否定をすれば、面白いものを聞きたい様な返事をされた。
この返事を聞いたのが瞑だったら、高橋に完全にキレるだろうな。
俺も正直その言い方にはイラついているがこの位でキレるぐらいに怒る程、俺は短気では無い。

俺はあくまで普通に答える。

「お前が泰に危害を加えていたら、まず泰がお前に対する態度が違うし」
「……」
「…それと」
「それと?」
「第一、お前が『自分が犯人です』なんて自分から正直に言う人間には思えないな。やるなら、こう…陰湿極まりないやり方をするだろう?高橋」
「まさか」
「嘘をつくな。お前はそんなやり方する人間だろう」

苦笑混じりにそう言うと、高橋がいつもの笑顔が消えた。
冗談で言ったつもりが、自分の本性を見抜かれた様で…こんな表情もするのか。
あ、いや、高橋も一人の人間だし、当たり前か。

「それは、また酷い事を言うんですね」

はぁ…と溜め息をつきながら高橋が言った。

「高橋に合ってると思うんだが」

軽く笑い窓の外を見ながら、俺は答えた。
今、高橋の顔を見ない方がいいだろう。

完全に笑顔が崩れてるぞ。

「…まぁ、確かに貴方の言う通りだと思いますよ。僕はやるなら徹底的にやりますので」


どうやら、今度は否定しないらしい。
そこだけは、否定して欲しかったと少しだけ思っていた。


「高橋」
「なんでしょうか?」



「俺達は、ちゃんとお前の事、見てるんだからな」
「…それで?」
「お前は泰に危害を加える様な人間じゃない」


「……」


そう言った俺は、話す為に中断していた仕事を再開する。
高橋は黙ったまま、俺を見つめていた。


「…内藤さんはお人好しではないですか?」


ふと、高橋は呟いた。
その言葉に、なぜだか俺は笑った。


お人好しだなんて、初めて言われたからかもしれない。
…いや、違うな。


「さぁ…。でも、人を見る力はあるつもりだが」
「ふふ…自意識過剰、かもしれませんよ?」
「人間、それぐらいがちょうど良い」
「それも、そうかもしれないですね」


いつもの様に高橋は笑っていた。
それは、偽りじゃなくて、本当の笑顔で。


「高橋」
「なんでしょうか?」


「もう、あんな冗談言うなよ」


「よく肝に命じておきます」



…やっぱり冗談だったのか。


生徒会室は一応、それなりの防音設計の筈なのだが、小さいながらに廊下から声が聞こえてきた。


どうやら、瞑に用事を(というかパシりか)済ませた泰が戻ってきたらしい。
そうすると、続々とメンバーもやって来るだろうな。


騒がしいのは嫌いだが、これはまた別という事で…


「ただいま~!」


「おかえりなさい」
「おかえり」


今までの会話が無かったの如くに、俺達は泰を出迎えたのだった――。