ガタン、ゴトン、と電車が揺れている。 本を読んでいた俺はふと顔をあげた。 電車の車窓からは海が一面に広がっていて綺麗な光景が目に映る。 毎回それを見る度に、あぁもうすぐ泰の地元に着くんだな、と思ってしまう。 駅を出れば何時ものようにおじさん(毎回『お父さんって呼んで』って言われるけど無視してる)が車を止めて待っているだろう。 もしかすると、助手席にはおばさんがいるかもしれない。 抱きつかれそうになったら瞑を身代わりにするか。 そんな事を考えているとアナウンスが流れて、いよいよ駅に近づいてきた。 俺は隣で寝ている泰を起こそうと声をかける。 「泰、次降りるぞ」 「ん〜…もうちょっとぉ…」 中々起きない泰にため息が出る。 …大体、何で俺が起こさないといけないんだろう。 全ては瞑が悪い。 いつもは瞑が寝ている泰を起こすのに、瞑ときたら泰の隣(つまりは俺の隣の隣)で一緒になって寝ているのだ。 2人が寝ているのに気づいたのは、本を読んでいた俺の右肩が異常に重たく感じたから。 2人して俺の方へ体を傾けていた。 本当、何だかんだ言って喧嘩するくせに仲が良いな。 俺は思わず小さく笑ってしまった。 「…笑ってんじゃねぇーよ」 「起きたか。狸寝入り」 「うわ、知ってたのかよ」 寝ていた…正確に言えば狸寝入りしていた瞑が気まずそうに言うと、泰から離れて伸びをした。 「もうすぐ着くぞ」 「わーってるっつーの…。寝てねぇんだからアナウンス聞こえてたし」 「それもそうだな」 ふっ…と笑うと、瞑は「本当お前良い性格してるよな」なんだのぶつくさ言いながら泰の肩を揺らして泰を起こす。 泰は寝ていたせいか、うー…と声にならない声を出しながらゆっくりと俺の肩から離れる。が、まだ完全には目が覚めていないのか焦点が合わずにボーっとしていた。 そんな泰に瞑は容赦なくちょっかいを出して無理矢理に目を覚まさせる。 そのおかげで覚醒した泰は「なにするのー!!」と頬を膨らませながら瞑に反撃をしていた。 …全く効いてはいないが。 「…お前ら、騒いでいるのはいいがもうすぐ降りるんだからさっさと準備しろ」 「「はーい」」 …… ……何か保護者になった気分だ。 二人はさっさと自分の荷物をおろして降りる準備を終わらせる。 毎回いつも同じことをしているせいか、回を増すごとに作業が早くなっているのは俺の気のせいでありたい。 俺も自分の荷物をおろして読んでいた本を鞄の中にしまった。 ――それは俺達の夏休みが始まる合図だった。 END