好きなものを好きだ、と正直言えたらどんなにいい事だろう。 彼女を見るたびに、そう思っていた。 それこそ10年も想い続けていた彼が目の前にいるのに、 彼女は優しく微笑んで佇んでいるだけ。 苦しい、とは思わないんだろうか? 彼女の立場にいるのがもし俺だったら、 …俺には、耐えられそうに無い。 現にそんな立場に俺もいるんだけど。 「言わないんですか?彼に貴女の正直な気持ちを伝えなくて」 「それは…あの人にとって迷惑なだけですから」 苦笑しながら、彼女は返事をした。 俺だったら、こんなに悲しませたりしないのに。 なんで…彼女の視線の先は俺じゃないんだろう。 もう、あなたのその顔を、俺は見ていられない。 だから…… 「僕は…いえ、俺は」 「?」 「貴女を悲しませない。…絶対に」 「龍之介さん…?」 「だから、決めました」 俺は絶対的に忠誠を誓わないといけない人を好きになってしまった。 それは、叶えてはいけない秘め事。 でも、 想い人がずっと辛い思いをしているなら。 …俺は見ていられないから、 だから、 彼女の手を掴んだ。 (――俺は、行動に移る。) (貴女とは違って。) ■END■