「あついよぉー」
「あっぢぃー」

突然だけど、生徒会室のエアコンが壊れちゃいました。


夏休みも中旬。
かずかずがまだ生徒会長の時、夏休みは当番制で生徒会室に来ること!っていう決まりが出来て、
かずかずが卒業した今もそれは続いていた。

今日は僕と瞑くんと恵くんが当番として朝から生徒会室に来る番だった。
でも当番で生徒会室に来てもなにもやる事がない。

夏休み中に学校内で問題があったら駆けつけるって言う事以外に僕たちに仕事はないから、
朝から持ってきた夏休みの宿題やったり、3人でトランプやったりしてた。

トランプを止めてUNOにしよっか〜と話していた時に突然バチっと天井のエアコンから音がした。

「え?え??なになに?」
「…エアコンのモニター見てくる」

何が起こったのかわからない僕はオロオロしてたけど、
入り口そばにあるエアコンのリモコンを恵くんが見に行ってくれて、エアコンがエラー起こして止まってると教えてくれた。
それから何回も電源を入れてもエラーが消えなくて、結論は壊れたって事で修理を呼ぶ事になった。

学校にいた顧問の夏兄ちゃんに報告して修理屋さんに電話してもらったんだけど、今日は修理屋さんが時間が取れなくて明日来る事になったって言われた。
つまり今日一日はエアコンなしで過ごすことが決定したって事だった。

最初はさっきまでエアコンがついていたから涼しかったんだけど、だんだん室内が暑くなってきて僕は既にもう限界。
…そういえば朝の天気予報のお姉さんが「今日は各地で猛暑日になるでしょう」って言ってた気がする。
だから僕は職員室から借りてきた扇風機の前に座って風をあびていた。

「うわ…これ見てみろよ二人とも」

瞑くんが壁にかかっていた温度計を外して僕達に見せる。
…うん。見なかった事にするね。

「お前ら…暑い暑い言ってるともっと暑くなるぞ」

額にものすごく汗が出てる恵くんが嫌そうな顔で僕達を見る。

「何で恵はそんなにいつもと同じようにいられるんだよ…」
「別に平気じゃない。…暑い。泰、そこをどけ」
「いーやーだぁー」

扇風機を独占していた僕の制服を恵くんが掴んで引き剥がそうとするから、僕は必死に扇風機にしがみつく。

「泰、お前独占はねぇだろ!?どけって」
「いーやーだぁー」

瞑くんも文句言ってけど、でも僕も引かない。
だって涼しいんだもん!

「瞑、泰を引き剥がせ。どんな手でも使ってもいい」
「りょーかい」

恵くんに言われて瞑くんはじわりじわりと僕に近寄って来る。

「な…なにするの…!?」
「でひゃひゃひゃひゃひゃ…」

僕は扇風機に掴んでいる手をもう一回ぎゅっと力強く握る。
瞑くんはいつもの笑い声でなんか楽しそうに近づいてくる。何か瞑くん怖いよ!目が据わってるよ!!
恵くんもなぜかメガネが逆光してて目が見えないけど口は笑っててすごく怖い。

「せぇ〜の」

僕の目の前までやって来て瞑くんは…




こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ……




「うひゃ…っ!あははは!め…くん!やめて…って…!!!」
「でひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ〜」

僕の苦手な場所を的確にくすぐり攻撃してきた。
昔から瞑くんは僕にくすぐり攻撃とかやってくるから僕の苦手な所は全部知っている。
だから瞑くんはそこばかり狙ってくすぐってきて、思わず僕は手を離しちゃって…

「恵!泰の手を離した!今すぐ扇風機を泰から離せ!!」
「了解」

恵くんがひょいっと扇風機をずらす。
ずらされたせいで風が当たらなくなった途端にむわっとした熱風が僕を包み込む。ううう…暑いよぉ。

恵くんが扇風機を退かしたのを確認した瞑くんは僕へのくすぐりを止めた。

「むぅー!ひどいよぉー!二人がかりだなんて卑怯だよぉー!!」
「自業自得だ。お前が独占するのが悪い」
「むぅー…」
「だよなー。今回は泰が悪い。……っておい」

途端に瞑くんが不機嫌そうな声になる。

「ん…?どうした?」
「どうした?じゃねぇよ…。何でお前一人扇風機の風を浴びてんだよ!!」

恵くんがいつもと変わらない表情でいる。
でもちゃっかり扇風機の風を独占していた。

「あぁ、俺の為にご苦労様」
「ふざけんなぁああああああああああああああああ!!」

瞑くんは叫んで、独占してる恵くんを引き剥がそうと僕と同じくくすぐりを仕掛ける。
でも僕とは違ってくすぐりとか全然効かない恵くんは普段見せないぐらいの笑顔で瞑くんを見下ろしてた。

「俺がそんなの効かないの知ってるだろう?それでもやるのか?」
「ひでぇって!俺様の労力はなんなんだよ!?」
「だからご苦労様って言っただろう?」
「ふざけんなマジで!退けって!!」
「断る」

とか恵くんは言ってたけど、拗ねた瞑くんと僕の為に
最終的に扇風機の首の回るボタン(何て言うんだろ?名前)を押してくれて僕達にも風を分けてくれた。

「絶対、許さねぇからなー」
「ぶーぶー!」
「はいはい」



―――ある夏休みの1日。














おまけ。(とある生徒の一場面)


やばいやばいどうしよう。
部活で学校の備品を壊してしまった。

『何かあったらまずは生徒会執行部に報告連絡しないといけない決まりなんだ』
部長にそう言われて自分は普段なら絶対来ない特別棟へやって来た。

生徒会室前へたどり着くとドアの前で大きく一回、深呼吸する。

(すー…はー……よし。)

生徒会の人は生徒中が尊敬する程、普通の人とは違う凄い能力を持った人たちの集まりだ。
いくら能力を買われて入れるこの学園に通えてるとはいっても、自分とは全く住む世界の違う人達だから、まるで芸能人と話すぐらい緊張してしまう。

でも話さないと先に話が進まない。
自分は思い切って生徒会室のドアを開けた。
緊張のせいでノックするのを忘れたと気がついた時にはもうドアを開けてしまった後だった。

「失礼しますっ!!」
「「「……あ」」」
「突然申し訳ないんですが……ぇ」

えっと…一台の扇風機の前に北条会長と、内藤・坂神両副会長…様?

生徒会の方達って住む世界の違う人達で…。
…あれ?
3人はなんで扇風機の前で顔に風を浴びせてるんだ?
……一言言っても良いだろうか。

何だ、このシュールな光景。


「貴方は…確か科学部の2年の方ですよね?えっとお名前は…」

すると何事もなかった様に北条会長が全体朝礼でいつも発言する時の笑顔で自分の前にやって来た。
自己紹介ないのに会長は自分の名前・クラス名を言い始める。
…うわぁ、会長は全生徒の顔と名前を覚えてるっていう噂は本当だったみたいだ。

やっぱり住む世界が違う人間は凄いなぁ…。
だからきっと今3人が1台の扇風機に顔を近づけてたのは、
自分には発見する事の出来ない扇風機の何かの真実を突き止めてたのに違いない。うんうん。

この学園の生徒会の方々は自分達とは違う世界の人なんだなぁと自分は内心凄く感心してしまいながらも
先程起こった事実を報告したのだった。


end