僕と彼が付き合い始めてからわかった事。

普段、皆と一緒にいる時はニコニコと笑っている彼は、
僕と二人っきりの時はまるで嘘の様に時々しか笑わない。

あの笑い方は所謂≪商売道具の一つ≫っていうのは解ってた。でも最初はそのギャップに戸惑ったりもした。
でもそれは僕の事がイヤとか嫌いとかそういう訳じゃないってちゃんと知ってるから僕は今まで何も言わない。
…実を言うとその時々見られる本当の彼の笑った顔を見るのが僕はとても好きだった。
本人には絶対に言えないけど。

「何考えてるの?俺の顔をじっと見て」
「え…?あ、いや別になんでもないよ」
「俺に隠し事?」

さっきからずっと龍之介さんの顔を見ながらそんな事を考えていたせいか、龍之介さんが物凄く不審そうな顔をしながら僕に問いかけてきた。
そうではないと説明しても彼は納得していない様な顔を崩さない。

「僕は龍之介さんに隠し事してないよ」
「……そう」
「ただ…っうわ!」

返事をしようとしたのにそれを遮るかのように強く腕を引っ張られる。
そのせいでバランスを崩して僕は倒れそうになるけど、後ろから抱きしめられたお陰で倒れてケガをすることは無かった。
でも、ここはいくら僕の部屋だといっても、二人っきりだといっても、抱きしめられるのは慣れないせいか恥ずかしい。

「りゅ…龍之介…さん?」
「……」

恥ずかしいのと嬉しいのとで頭がぐちゃぐちゃになって、ちょっとだけ声が裏返ってしまう。
龍之介さんは黙って僕の肩に顔をうずめたままで何も返事しなかった。
僕も顔を見ることは出来ないからどうしていいのか解らない。

「えっと…」
「…………その声、反則」

その後に必死に笑いを堪える龍之介さんの声が聞こえた。


「…龍之介さんってもしかして結構意地悪…」
「まさか」
「でもなんかこれはひどいなぁ…」
「それは、柊が本当の事言ってくれないから」

そう言って抱きしめる力を少し強くされた。
それでも抱きしめられている僕は苦しくはない。

「本当の事って言っても…」
「もう一度聞くよ。俺の顔見ながら何考えていたの?」
「…笑わないで聞いてくれるって約束してくれる?」
「約束する」
「ただ…あの時ずっと龍之介さんのこと考えていた、んです」
「俺の事?」
「うん」
「……そう」

結構オブラートに包んだ言い方を言うだけでも恥ずかしい。
絶対に自分の顔が真っ赤になってる事はわかってる。

僕が正直に話したのに、龍之介さんはそう返事をしたまま黙っていた。
どうしたのかと思っても後ろから抱きしめられているから何も出来ない。
でも、どうしたのかと思って体を少しよじって龍之介さんの顔を見てみると…

「うそ……」

思わず声に出して言ってしまった。
俯いていた龍之介さんの顔が、うっすら赤くなっていただなんて…思いもよらなくて。

龍之介さんが顔をゆっくりと上げて僕と目線が合う。
目線が合うと少し照れくさそうに龍之介さんは、

「俺の事考えてるとかそういう風に言われたの…初めてかな」

ありがとうと言って龍之介さんは笑う。
今まで僕が見たことのない…幸せそうな笑顔だった。



+そんな笑顔に堕とされる+
(……龍之介さんだってその顔は反則だ。)