ここ、何の店か知ってるの?

「どれが良いと思う?」
「へっ!?」
「この中で」

ニコニコしながら彼は私に問う。

これが花だったらいいわ。
でもね、アンタが指差すソレは…


【いわゆるソレがマリッジリングという。】


いつもの休日デートを楽しんでいた(だなんて死んでも彼には言わないけどね!)私達は信号につかまって、待っていた私はふと目の前のいかにも高そうな店のショーウィンドウに目が行ってしまった。

多分、私が見ていたのを気づいたんだろう。
彼の視線も私と同じ所へ行って。しかも『どれが良い』かだなんて聞いてきた。

確かに私は諭吉とか大好きだけど、宝石とか所詮石ころなんて興味が無いわ。と言うと、彼は沙百合さんらしいって言って笑う。

「でもあのエメラルドのは沙百合さんに似合いそうだと思ったんだけどなぁ」
「そう?」
「うん」

そこまでキッパリ言わなくてもいいじゃない!
何かこっちが恥ずかしくなってきたじゃないの…!

「そういえば」
「なに?」
「あれってマリッジ…リングっていうんだっけ?」
「そ。結婚指輪」

やっぱりと彼は呟く。

ちょっと待って。まさか最初はちゃんと知らずに指輪がとか聞いてきたの??

私にあの結婚指輪が似合うとか言ったから舞い上がっていたのに…!
これじゃまた自分一人で舞い上がっていたって事じゃないの!!馬鹿!!

「ねぇ沙百合さん」
「なに〜…」

お願いだから今は私の名前呼ばないで欲しい。
軽く自己嫌悪中なのよ。

そんな心の声が私以外に解る筈もないだなんて百も承知だけど。

「あのエメラルドの指輪、あともう少しだけ待ってて。……ね?」
「はいはい、」

待ちますよーって、
…え?待ってろ?エメラルドの指輪を?
エメラルドの指輪っていうのは、さっきのマリッジリングしかないわよね?

マリッジリング…結婚指輪…待ってて……!?

「〜〜っ!!」

言葉の意味を…解ってしまった。

あんまりにも恥ずかしくて、私は彼に背を向けるように歩き出した。
振り向き様に見た彼の顔はちょっと照れた様に笑っていて、私は余計に恥ずかしくなる。

速く歩いている筈なのにいつの間にか追いつかれていて、彼はさっきと同じ様に隣にいる。
ひょろひょろな体格の癖に、意外に運動神経高いの忘れてた。

「庭師」

歩きを止めて視線をあわせずに、

「……私に愛想尽かされない様に頑張りなさいよ」

そう言ってさっきより足早に歩き出して、話を聞いていた彼を再び追い抜いた。


暫くして後ろから私を追いかける足音が聞こえた。
その音が大きくなる頃に、歩くスピードを速める。
途中で私を呼ぶ声が聞こえたけど、あえて無視した。


でも最後は追いつかれて、腕を掴まれて、名前を呼ばれて、


彼は幸せそうに笑っていて。
私は恥ずかしさ100%で俯いていて。


もう一度、彼は私の名前を呼んで、



――そして、