「ほいよ、恵」 夜遅く、珍しく恵が俺の部屋にやって来た。 「相談に乗って欲しい事がある」と言われたのでてっきり泰の事なんだろうかと思っていたらどうやら違うらしい。 恵が本題を出す前に、俺は二人分のコーヒーを入れて一つを恵に差し出した。 「すまない」 「いーえ。んでだ、何の相談?」 コーヒーを飲みながら俺は恵に尋ねる。 「…お前なら良い回答を貰えると思ってるんだが」 受け取ったコーヒーのマグカップを持ちながら、恵は呟く。 「なによなによ?俺様が良い返事をくれるって??まさか、恋愛相談?」 でひゃひゃ、と冗談半分に笑いながら恵を見る。 まさか恵から恋愛相談なんて、そんなの絶対にないっつーの。 お前は馬鹿か、と言った感じの返事を待ってたのに一向にその返事は訪れない。 むしろ恵は真剣に俺の顔を見てきて…… 「あぁ。そのまさかだ」 「ぶっ…!」 恵の言葉に思わずコーヒーを噴出した。 「恵が恋愛相談なんて…世も末だな」 「結構な言い方だな」 「いや、まさかこんな日が来るなんて思わなくてよ…」 「……」 「いや、すいません。冗談です」 「…まぁいい。で、その内容なんだが」 「ちょっ、ちょっと待て…!」 相談を言おうとした恵を一旦止めて俺は一つ大きく深呼吸する。 まさか、恵からこんな相談されるだなんて本当思ってもいなかったせいか妙に緊張してきた。 というか、何で俺様が緊張しなきゃいけねぇんだよ…ったく。 「…瞑、そろそろいいか?」 恵が訝しそうに俺を見つめている。 「…あぁ」 「じゃあ相談なんだがこれを見てもらいたい」 そう言って恵は自分の携帯を取り出して画面をいじり始めた。 「見てもらいたいって画像か…?」 「あぁ」 俺の問いかけに恵は画面へ視線を向けたまま答える。 …って、画像持ってんのかよ!? 本当恵にそんな相手がいただなんてもう10年来の付き合いだけど初めてだった。 コイツ本当に恋愛に興味あんのかよ?って程、恋愛話を聞いたことがない。 ドがつくくらい真面目だし、泰がああだから生徒会の仕事を一人でやってるわ、毎日時間をつくっては真面目に部活やってるわ、 テスト順位だって俺は恵に勝てたこと無いし。 そんな奴が恋愛…ねぇ…… …だめだ、想像できない。 「見っけた?」 「これだ」 恵が俺に携帯を差し出してきたので、俺はそれを受け取る。 さてさて、恵がお熱の女の子はどんな子なんだろ〜なぁ…?? …… ………あれ? これは…… 「……ちょっと恵サン」 「なんだ?≪さん≫付けだなんて気持ち悪い」 恵から渡された携帯に写っている画像は、 「お前、人以外に恋したのか?」 頭にリボンを結んであるヨークシャテリアの画像だった。 「お前は馬鹿か」 「だって、恋愛相談だって言われて犬の見合いの話だなんて誰が思うかよ!?」 「勘違いするお前が悪い」 恵が恋愛相談と言ったのは画像の犬−聞いてみれば恵のおふくろさんの職場の人が飼っている犬−が今度見合いをするらしく、 その時に行く格好の画像を見て何か意見が欲しいということらしい。 全くもってくだらねぇ。…てか、俺の緊張返せよ。マジで。 「てか何で犬の件で俺なんだよ。そこら辺は動物好きの泰や実がちょうど良いだろうが」 「これは≪メス≫だが、女関係はお前は詳しいだろう?」 「俺様は人間の女の子限定!!」 「…で、どう思う?」 「それでも聞くんかい…。まぁ、いいんじゃねぇーのぉ?」 「そうか。助かった」 そう言って恵はまた携帯をいじり始めた。…どうやら返信しているらしい。 俺はハァ…とため息をつく。 「あー…心臓に悪かった。くっそー……」 「なにがだ?」 嫌味がましく恵に言うと、本人はまるっきり解っちゃいねぇ感じに聞いてくる。 「俺様、てっきり恵に好きな子でも出来たから恋愛相談してきたのかと」 「はぁ…?お前は俺がそんな相談すると思うのか?」 まるで「ありえない」といった感じに馬鹿にしたような顔で恵が見つめてくる。 「ほんの少し前までは思わなかったけど、さっきは本気でそれかと思った」 その態度に何かカチンときたので俺はブスっとした態度で言うと、 「たとえ俺に好きな人が出来たとしても、お前には絶対に相談しない」 いらない知恵つけられそうだからなと笑いながら言う恵に「はいはいそうですかー」ともう本当どうでもいい感じに答えて 俺は空になったカップにおかわりのコーヒーを入れるべく、部屋に備え付けの小さいミニキッチンへ向かう事にして立ち上がった。 ぶつぶつ文句言いながらキッチンへ向かっていたせいか、その時恵が何か呟いていたのを俺は気がつかなかった。