もう本当に嫌になっちゃうなぁ。
今日も今日とて、放課後になったとたん部長は私の所まで来て「部活に出ろ」だのなんだの言ってきた。
だから、隙を見て逃げ出してきたんだけど……

いつもは、途中であきらめるくせに、今日はいつも以上に長く私を追い続けてくる。

「もういい加減にしつこいんじゃないの?」
「だったら、観念して部活に出ろ!もうすぐ大会が近いんだぞ?」
「いや、そんなの知らないって」
「部活に出てないからだろうが!知らなくて当然だ!」
「私は今回も出る気はありませーんよ、っと!」
「おい、こら真夜!!」

急に一直線に逃げていた私は、急に部長の方向を向く。
一瞬驚いた部長のその隙を狙って、スッと部長の横をすり抜けて私は部長とは反対方向へ走り去っていく。
通り抜ける際に部長に腕でも掴まれるかな?とか思ったけど、突然の私の行動に驚いたのか、手を掴んでこなかったから良かった良かった、うんうん。

ある程度逃げ切って、ここらでどっか開いてる教室にでも隠れようかとゆっくり周りを見渡していたら、目の前を歩いているツナギ姿の庭師もとい柏木くんを発見した。
ツナギ姿ってことは、これから花壇でも行くのかな…?

「やっほー」
「あ、真夜さん。こんにちは」

手を振りながら挨拶すると、私の声に気づいたのか笑顔で私に挨拶を返してくれる。
ナチュラルにその行動が似合ってるなぁ…。

「花いじり??」
「うん。でも今、肥料が足りなくなって倉庫に新しい肥料を取りに行った帰りで」

そう言って柏木くんは白い大きな袋を私に見せてきた。
多分その中に柏木くんが必要だとしている肥料が入ってるんだろう。

「真夜さんは??」
「今、部長から逃げ切ってる途中ですさ」
「敬志さん今日も張り切っていたでしょ?」
「うん。もうそれはそれは、張り切りすぎで今日はちょっと捕まりかけたけどね」

そう言うと、柏木くんは「はは……」と静かに笑う。

「今日、クラスで僕に言ってたなぁ。「真夜がいてくれれば大会新記録いけるんだけどなぁ……」って」
「……へ?マジですか??」
「陸上部にとっては重要視されてるんだね、真夜さん」
「そう、かな??」
「僕にはそういう風に聞こえたよ?」

柏木くんにそう言われただけで一瞬だけ今日は部活に行こうかなーとか思ったけど、ふと時計を見れば部活はとっくに始まっている時間で今から行っても遅刻は嫌だから、今日は行くのやめにした。
明日行けばいいか。

「くぉらー!真夜ぁー!!どこ行ったー!!」

そんな風に思っていたら、遠くから誰か私の名前を呼ぶ声がした。
この声って……部長!!?
ていうか部活始まってるでしょ!!?
え?なに??まだ追いかけてるの!!!?!?
正直、どんだけ!!??

「うは……どうしよう」
「真夜さん?どうかしたの??」
「いや、まだ部長追いかけてきてるみたい……」

私は焦る。
どうしよう……逃げ場所なんて決めてないのに。
ていうか、どこに逃げようか。

「うわー…ヤバイなぁ」
「段々こっちに近づいてきてるみたい、ですね」
「んーどうしよう……」
「……真夜さん」

そんな私の様子を見てた柏木くんはいきなり私の手を掴んできた。

「え!?!?」

いきなり手を掴まれて驚いた私は柏木くんを見る。

「ちょっと、こっちに」

私と目線が会った彼はそう言って、側にあるドアを開けた。
私達はそのまま中へ入っていく。

「あのー…」
「ここで、待ってて」
「え、あ、うん」

いつもの笑顔で言われたから、思わず返事しちゃったし!!
私の返事を聞いてから、柏木くんは部屋を出て行った。
その後すぐにバタバタと足音が聞こえてくる。
うわーもう少しで見つかるところだった。超危なかった……!!

……というか、ここ何の部屋なんだろう?と周りを見渡してみると、柏木くんが持っていた袋が周りに沢山置いてある。
って事は、此処は倉庫か。

ドアの窓は中が透けて見えないけど、モザイクがかかったように人影が見える様になっていて、ドアの前に柏木くんが立っているのが見えた。
そこにもう一つ人影が見えた。
間違いない。あれ部長だ。
私が中にいるのがばれない様に、音をたてずにその場に座り込んだ。

『お、柏木!』
『こんにちは』

二人が会話してるよ。……何か物凄く違和感があるんですけど!!
まぁ思えばこの二人、同じクラスなんだっけ。

『オレ今さー、真夜探してるんだけど見なかった??』
『真夜さん?ここには来てないですよ』
『そっか。……ったく、真夜は何処に行ったんだ??』
『もしかしたら、向こうの方じゃないかな??』
『あーそっちはまだ行ってないんだよなぁ。もしかしたら……よっし、行ってみるか!柏木、ありがとうな』
『いえ。頑張ってね』
『あぁ!それじゃあ!!』

部長はそう言うと、走って行った。
……どっちの方向行ったのかは解らないけど。

ほんの少しだけ時間が過ぎてから、ドアがノックされた。
私がドアを開けると柏木くんが「もう大丈夫だよ」と笑顔で私に言ってきた。

「ありがと」
「気にしないで」

私はそそくさと倉庫から出る。
きょろきょろ周りを見てると、あっちの方向へ行った、と指差しで方向を教えてくれた。

「それにしても驚いた」
「なにが?」

柏木くんはきょとんとした顔で私を見る。

「柏木くんも嘘つくんだ」
「僕だって人間だし、必要な時には嘘もつくよ」
「やっぱり意外」

私がそう言うと、柏木くんはそうですか?みたいな顔つきになる。
その顔が何だかおかしくって私は思わず笑ってしまった。

「?何で笑うんですか??」
「いや……!その、ごめん」
「そんなに笑うと、敬志さん呼んじゃうよ?」
「それは勘弁して」

何だか知らないけど、目線があった瞬間、二人して笑ってしまった。

「真ぁー夜ぁー……」
「うげ!!」
「柏木も……お前等グルだったのか!!」

 

そのせいで部長に見つかってまた逃げる羽目になったのは、しょうがないって事で。