「よぅ!」 部活帰り(ちなみに今日はテニス部)、俺は生徒会室に寄った。 …別に用事なんか無いけど、なんとなく。 生徒会室に入った瞬間、中には恵一人しかいなかった。 他の皆は帰ったのか。 しかも俺と同じく恵も部活帰りだったのか、部活ん時の格好で書類に目を通してる。 「どうした?」 俺と目が合った恵がそう聞いてきた。 「いや、何となくな〜って恵は?」 「やり残した仕事があったんだ」 「へぇ…つか何で袴着てんだよ?」 「部活終わって急いでた。というかこれは袴じゃない。胴着だ」 「んな、どっちも似てるじゃねぇかよ」 袴と胴着の差なんか素人に何か判るか!とツッコミをいれると、「全然違うんだが、見て分からないのか?」と言いながら笑った。 「にしても珍しいな〜」 「?なにが」 「部活帰りの格好でココに来るなんて」 「あぁ、だからちょっと片付けたい書類があってって…何回言わせるんだ。別に仕事終わったらここで着替えようと思ったんだよ」 「ふ〜ん…」 にしても、その格好の恵を見る事はあまりない。 何だかしっくり来ないっていうか…何ていうか……。 普段と違うからだな。 俺って泰に誘われない限り、恵が出てる大会なんて行った事ねぇしな。 だってさ、どちらにしろ恵の何連覇か判らん優勝で幕が閉まるのは目に見えてる。 恵は剣道の化け物並だ。 ていうか胴着…ねぇ。 俺、胴着っていうか袴とか和服って着た事ないんだよなぁ……。 強いていえば夏祭りの浴衣ぐらいだな。 七五三は…記憶にないからカウントしない。 てか着てみたいよなぁ、一度くらいは。 日本人として。 「なぁ恵」 「ん?」 「俺にそれ着させて」 「は…?」 「別にいいじゃん?大体服のサイズとか同じなんだから「断る」 即答かよ! ていうか、そんな即答だと俺様だって傷つくんですけど…!! 「いいじゃんか〜、な?恵」 俺はめげなかった。 「嫌だ。…って何してるんだ?瞑」 恵はまた拒否したけど、俺はもう知らない。 「んじゃあ、もう無理やり脱がせて着る」 「ふざけるな」 「だって、それしか方法ないっしょ?…ちなみに俺様、本気よ?」 「だからやめろ!」 恵は嫌がってるが、俺は段々その光景が楽しくなってきて仕方が無い。 こんな風に恵にちょっかい出すのも久々だし。 「よいではないか、よいではないか」 「このアホ。こんな光景とか人に見られたら誤解されるに決まってる…って、下の紐を解くな!」 「だってこうしないと上の部分の胴着、紐解かせられそうにないじゃん」 「…まぁ、それは確かにそうなんだが。まず組み敷かれている事に文句を言わせてくれ」 「ま、誤解されそうだよなぁ〜」 「されそうな、じゃない!確実に誤解されるだろうが。だから離れろ」 「いーやだ。…つかこんな時間にココに来るヤツなんてよっぽどの暇人だっつーの」 「んじゃあ、さっき来たお前は暇人なんだろうな?」 「うわ…ひでぇー」 話ながらも俺は恵の胴着の上の紐を外す。 後は脱がすだけだ。 恵は口で文句ばっかり言いながら、俺の手を掴んで阻止してる。 でも、さっきより抵抗が弱くなった感じがするな… よっしゃ!ついに諦めたな。 つか、溜め息つくなよ。 俺がこういう性格だって知ってるだろうに。 「…わかった。着させてやるから、上から退いてくれ」 「はいはい、わかりましたよー」 と恵に言われて素直に俺が退こうとした瞬間…… 「失礼ー。ここに真夜いる……か………」 まさか、外が真っ暗になったこんな時間に誰が来ると思う? いるんだよなぁ〜。…ノックしないでいきなりドア開ける人間が只一人。 陸上部部長の片岡だ。 全く中で人が『何か』をしていたらどうすんだよ。 正にその『何か』をしてるっていう誤解を招く行動をしてたっていうのが俺達でありまして…… 「……」 「……」 一瞬にして静まる室内。 入口で固まってる片岡。 ははは…とか言っちゃってる俺。 はぁ…と溜め息ついている恵。 「いや…あの……邪魔するつもりは無かったんだ……その」 明らかに動揺している片岡は、こちらに目線を合わせようとしない。 「片岡、違うんだ」 恵がそう言っても片岡は聞いちゃいねぇ。 「ご…」 「「ご…?」」 「ごゆっくりぃぃぃぃ!!」 片岡はそう言ってドアが壊れるんじゃないかってぐらいに大きな音を立ててドアを閉め、一目散に走りさって行った。 ……あぁ、確かアイツ短距離走選手だったっけ…? 次の試合、良い成績とれるんじゃないか?? そんな事を俺は考えていた。 現実逃避したみたいに。 シーンと静まりかける生徒会室。 暫くすると恵がはぁ…と今日何回目かわからない溜め息をついた。 結局俺は胴着は着れず(当たり前だけど)、しかも俺は恵から重要な任務を与えられた。 それは、片岡の誤解を解く事であって…… 片岡の誤解を解くのに3日間かかった事は、この際、目を瞑ってくれるとありがたい……